ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語

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ゾラン・ジフコヴィッチの不思議な物語

Zoran Živković (ゾラン・ジフコヴィッチ)


翻訳:山田 順子
解説:巽 孝之

近年大注目の旧ユーゴスラビア・ベオグラード出身の現代作家、ゾラン・ジフコヴィッチ(Živković)による摩訶不思議なストーリーを集めた傑作選。SF、ポストモダン、シュールレアリスムと形容されるジフコヴィッチの作品。シンプルな文章の背後に見え隠れするユーモアやシュールさ、知性や深みといったものが織り成す独特の世界。一見バラバラに見えていたパーツがクライマックスに近づくにつれて、ひとつの形をなしていくよう綿密に計算されたプロット。シュールなファンタジーの名手として注目株のジフコヴィッチの世界を、今回は日本語の翻訳でお届けいたします。

ある日、砂漠の丘の上に建つ古代の大図書館が火事にみまわれるという、不思議な夢を見た司書の女。業火の中から響き続ける音楽隊の不気味な演奏。目を覚まし、いつもどおり図書館に出勤すると、パソコンのスクリーンに夢とそっくりの光景が現れ、例の音楽が高らかに鳴り響く。現実と夢が入り混じる世界に気が動転しそうになるThe Fire。駅前のティーショップで謎の「物語でできたお茶」を注文した女。普段は冒険などとんでもない女だったが、たまたま鉄道駅で待ち時間ができてしまったその日に限って、違うことがしてみたくなる。メニューの中から一番変わった「物語でできたお茶」を注文すると、お茶を運んできたウェイターが失踪した死刑執行人の物語を語り始める。ウェイターが話を終えると、次にレジ係が、そして店にいた客までもが席にやってきて、ひとりずつ話の続きをつむいでいく。自分好みの話に浮き足立ったものの、最後に冷や汗をかくことになるThe Teashop。交通事故のあと未来が見えるようになった、と主張する少女を担当することになった精神科医の女。病院の独房に閉じ込められた少女は、どのように未来が見えて、どうやって未来が決定されるのか、不可思議な話を語るが精神科医には信じられない。自分の未来までも予言する少女の結末は、はたして偶然なのか、故意なのか。謎に包まれたまま余韻を残して終わるHole in the Wall。

偶然と必然、幻想と現実が交錯し、読者を緊張感のベールに包みこむジフコヴィッチの作品。ウィットに富み、ホラー過ぎず、気がつけば程よい奇妙さの中に引き込まれているストーリー。そこに広がるのは、身のまわりの少し外側にあるかもしれない世界。見たことはないけれど、ないとは言いきれないと思わせる世界。一瞬息をのむ恐怖を味わいながらも、どこかで安堵し、思わずさらなる思索に耽ってしまう結末をジフコヴィッチは用意しています。旧ユーゴスラビアという日本から遠く離れた土地から送られてなお人を震撼させる作品は、鋭い観察眼からはじき出された、人間の本質や心理を鮮やかに語ります。読み進むにつれて次第に高まる期待と恐怖、そして、つい結末の先を想像せずにはいられないよう見事に仕組まれたストーリーの数々を、存分にお楽しみください。


書評

  • "白眉":早川SFマガジン

書籍データ:

  • 150ページ
  • ISBN: 978-4-902075-16-8
  • 黒田藩プレスID: FG-RS0001
  • 定価: 800円 (消費税抜き)

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ゾラン・ジフコヴィッチの英訳:

Compartments

翻訳: Alice Copple-Tošić

遅れそうになって列車に飛び乗った男は、車掌に連れられるままに6つのコンパートメントをひとつずつ訪れた。コンパートメントの乗客と不可思議な会話をかわしては、移動する。得体のしれない乗客たち。男を襲う恐怖と不条理。移動するたび高まる緊張感が迫りくるCompartments。広場の近くで働く4人の人間。カフェのウェイトレス、美術館の警備員、映画館のスタッフ、目の見えない素人オーボエ吹き。ひょんな拾いものから、忘れかけていた自分たちの情熱を思い出す。芸術が持つ修復力を巧みに描いたThe Square。思いがけずできてしまった列車の待ち時間を、駅前のカフェで潰すことにした女性。初めて入るカフェで頼んだものは〝物語でできたお茶〟。女性の心をとりこにした見事なストーリーテリングの技と奇跡の運命の糸をたどるThe Teashop。その他、短編The Telephone とFirst Photographも収録。

Four Stories Till the End

翻訳: Alice Copple-Tošić

死刑囚の独房、ホテルの部屋、病室、エレベーターに次々と現れる訪問者たち。訪問者たちは、見聞きしたことや周囲の出来事を部屋にいた人間に語り始める。亜鉛の採掘場、精肉工場、武器工場の見学や、高名な芸術家たちが眠る墓地を散策するオプショナルサービスを提供するホテルのこと。同じ部屋のバスルームで4人もの人間が自殺したこと。絵を描きに出かけると、見事なまでに大災害に見舞われる不運の画家のこと。芸術と死をめぐる大胆な想像力と滑稽さ、痛烈な皮肉が、物語を複雑怪奇な迷宮にいざなう。ジフコヴィッチの計り知れない想像力が遺憾なく発揮された作品集。

The Library

翻訳: Alice Copple-Tošić

「本」をテーマに奇妙に絡まる6つの物語。どこかおかしな、熱心で神経質な蔵書家たちが出会った悪夢とは? まだ執筆していない未来の作品がインターネット上に掲載されているのを発見した作家。郵便ポストを開け閉めするたび永遠に出現するハードカバーの本を、せっせとアパートの自室に運び込む孤独な男。あらゆる人間の記録書を所蔵する不気味な夜の図書館に忍び込んだ青年。罰ならぬ治療として悪魔に読書を義務づけられた、地獄におちた男。開くたびに新しい話が現れる奇跡の本を、期せずして手にした作家。蔵書の中で一冊だけあるソフトカバーの本を葬り去ろうと躍起になるハードカバー収集家。本のまわりに集まる男たちに起こった奇怪なストーリー。

  • Winner of the 2003 World Fantasy Award
  • Longlisted for 2004 International IMPAC Dublin Literary Award

Miss Tamara, the Reader

翻訳: Alice Copple-Tošić

歳の異なる3人のミス・タマラがおくる8つのストーリー。若いミス・タマラは、図書館で借りた本にひそかに挟まれていた、自分宛ての絵はがきとメッセージのことが頭から離れない。中年のミス・タマラは、新しく買った読書用の遠視眼鏡をかけると、本のページからアルファベットが抜け落ちてしまう。老年のミス・タマラはある日、物覚えが悪くなったことに気がつき、読書しながら食べていたはずの果物の名前も、読んだ本の内容も思い出せない。読書中にかかってきた謎の電話。電話の男が言うままに公園で待ち合わせ、男のために本を朗読するミス・タマラ。一見シンプルなストーリーの中に秘められた奥深いテーマの数々。若さと老い。記憶と喪失。孤独と仲間。肉体と精神の関係。また、8つのストーリーのすべてに共通するテーマは読書。読書の喜び、読書の真価。読書家であるということは、ただ孤独を意味するのではない。読書は物事の発見や愛にも結びつくというメッセージが込められた心温まる作品集。

Amarcord

翻訳: Alice Copple-Tošić

人間の「記憶」を題材に、さまざまな角度から展開する10のストーリー。骨董品店で、過去の偉大な芸術家の記憶を探す男。作り物の素晴らしい記憶を植えつけることができると売り込みに来たセールスマン。記憶を失い、サナトリウムで静養中の老人。楽観と悲観。尊敬と冒涜。天国と地獄。ジフコヴィッチの余計なものが混じらない簡潔なストーリーは、人間を行動に走らせる原動力、すなわち情熱、虚栄心、切望といったエッセンスを鋭く切り取っている。過去、記憶、アイデンティティー。異なる視点から描き出された人間の記憶を読めば読むほど、自らの存在を再確認することになる短編集。


著作者

ゾラン・ジフコヴィッチ (Zoran Živković)


1948年旧ユーゴスラビア・ベオグラードに生まれる。1973年ベオグラード大学文献学部総合文学科を卒業。1979年修士号、1982年博士号を取得。現在、同大学にて創作文芸の教授を務める。
The Fourth Circle (1993年)、Time Gifts (1997年)、The Writer (1998年)、The Book (1999年)、Impossible Encounters (2000年)、Seven Touches of Music (2001年)、The Library (2002年)、Steps through the Mist (2003年)、Hidden Camera (2003年)、Compartments (2004年)、Four Stories Till the End (2004年)、Twelve Collections and The Teashop (2005年)、The Bridge (2006年)、Miss Tamara、The Reader (2006年)、Amarcord (2007年)、The Last Book (2007年)、Escher's Loops (2008年)、The Ghostwriter (2009年) など18本のフィクション小説を執筆。
現在、妻のMia、双子の息子Uroš、Andreja、猫3匹とともにセルビア・ベオグラードに在住。

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